「子供」「子ども」「こども」

 「子供」「子ども」「こども」――。複数の表記があるこの言葉を巡り、来春に発足する「こども家庭庁」の設立準備室が他省庁に依頼文を出した。6月に成立した「こども基本法」の理念を浸透させることを目指し、行政文書などは原則、平仮名表記の「こども」を用いるよう呼びかけたのだ。
(略)
 「『こども』表記の推奨について(依頼)」と題した事務連絡が各省庁に届いたのは9月中旬だった。準備室は、こども基本法の理念を踏まえ「こども」表記の判断基準を整理したとした上で、固有名詞や法令に根拠がある語を用いるなど特別な場合を除いて「こども」の使用をすすめた。
 
 「平仮名で「こども」表記を こども家庭庁準備室が他省庁に依頼文」
毎日新聞 2022/11/2 18:30(最終更新 11/2 21:09))

言葉は時とともに変化するもの、と思っているので「子供」でも「子ども」でも「こども」でもなんでもいいかなと思う一方、公用文においては当面「子ども・子育て支援法」のような固有名詞を除いて「子供」と書くつもりである(私は。)。

法令(法と政令で検索。)での「子ども」の登場例。目に入った主なもの。

  • 子ども・子育て支援
  • 子ども・子育て拠出金
  • 子ども手当
  • 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律
  • 子ども・若者育成支援推進法
  • 厚生労働省子ども家庭局母子保健課
  • 子どもの貧困対策の推進に関する法律

以下のような例もあった。

  • 生活困窮者自立支援法第3条第7項中「子どもの学習・生活支援事業」

  • 死因究明等推進基本法第3条第2項

2 死因究明の推進は、高齢化の進展、子どもを取り巻く環境の変化等の社会情勢の変化を踏まえつつ、死因究明により得られた知見が疾病の予防及び治療をはじめとする公衆衛生の向上及び増進に資する情報として広く活用されることとなるよう、行われるものとする。

  • 同法附則第2条

 (検討) 第2条 国は、この法律の施行後三年を目途として、死因究明等により得られた情報の一元的な集約及び管理を行う体制、子どもが死亡した場合におけるその死亡の原因に関する情報の収集、管理、活用等の仕組み、あるべき死因究明等に関する施策に係る行政組織、法制度等の在り方その他のあるべき死因究明等に係る制度について検討を加えるものとする。

  • 大学等における修学の支援に関する法律

 (目的) 第1条 この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学の支援を行い、その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする。

  • 子どもの貧困対策の推進に関する法律

 (目的) 第1条 この法律は、子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、全ての子どもが心身ともに健やかに育成され、及びその教育の機会均等が保障され、子ども一人一人が夢や希望を持つことができるようにするため、子どもの貧困の解消に向けて、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。

  • 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律

 (目的) 第1条 この法律は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故(以下「東京電力原子力事故」という。)により放出された放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため、一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者(以下「被災者」という。)が、健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じていること及び当該支援に関し特に子どもへの配慮が求められていることに鑑み、子どもに特に配慮して行う被災者の生活支援等に関する施策(以下「被災者生活支援等施策」という。)の基本となる事項を定めることにより、被災者の生活を守り支えるための被災者生活支援等施策を推進し、もって被災者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与することを目的とする。

「子供」表記について、丸山穂高元衆議による主意書がある。

主なところをかいつまむと、

  • 問 「子供」表記が差別表現ではないと文科省・政府は結論付けた、というのは有効か?
  • 答 「子供」表記が差別表現かどうかを文科省・政府が判断したことはない。
  • 問 各省で表記が未だばらばらなので「子供」に統一するべきではないか?
  • 答 原則「子供」だが、個々の事情に応じ判断。なお、地方公共団体においては各地方公共団体において適切に判断されるべきもの。

毎日新聞の取扱い。これくらいの感覚がよいのではないだろうか。

毎日新聞では「こどもの日」のような固有名詞を除いては、「こども」の表記について特に方針を決めてはいません。紙面での使用実態においても、ここ数年はほぼ半々で、全体としてみれば「どちらでも問題ない」という方針になっているとも言えるかもしれません。
(略)
「子供」の「供」の字を嫌う人もあれば、漢字で書ける「供」をあえてひらがなで書くことを嫌う人もおり、これはもはや好みの問題でありましょう。
毎日ことば「「こども」どう書く」

読売新聞元編集手帳の竹内氏の意見。これも面白い。

それにしても、「子供」の「供」から「お供」を連想し、そこに差別意識を嗅ぎ取るなんて、世の中にはずいぶん心優しい人たちがいるのですね。そういう人たちはきっと、命ある尊い存在を「物」と呼ぶことに差別意識を嗅ぎ取って、「動物」を「動ぶつ」と書いているのでしょう。あのおいしくて栄養のある食べ物に「腐」の字を用いるのは豆腐に対する差別と映るはずですから、きっと「豆ふ」と書いているのでしょう。(竹内政明『「編集手帳」の文章術』,文春新書,2013年,p.149)

いずれにせよ、言葉の移ろう最中を目撃していると考えると、客観的に楽しめるのではないでしょうか。