利根村損害賠償請求事件

村への損害賠償請求は棄却されたが、随意契約及び公金支出には違法性が認められるとされている。

ア 前記認定のとおり,本件契約の締結は,その姿形と由来により,群馬県の天然記念物及び利根村の指定文化財であった「経塚の松」に代わる赤松の植栽を目的とするものであって,単なる樹木の植栽を目的とするものとは異なるから,請負代金も比較的高額になることが予想され,注文者である利根村において,本件事業の対象となる赤松が「経塚の松」に比肩しうる特別なものとして生育する見込みがあるかどうかにつき関心を払い,さらにそればかりではなく,植栽工事の遂行能力や植栽後の手入れ,植栽した赤松が枯死した場合はこれと同等の松を植え替えるための枯れ保証の必要といった点の考慮から,本件契約の相手方の資力,信用,技術,経験等その能力に大きな関心を持ち,これらを熟知した上で特定の相手方を選定してその者との間で契約を締結するのが妥当である。
ところが,C課長は,被告B方のみ現地調査を行い,有限会社G及び有限会社Hがいかなる赤松を所有しているのかを確認しないまま,見積りを徴する業者として選定した上,「経塚の松」は樹齢約600年であるにもかかわらず,被告B方に樹齢約40年の松があることに基づき,見積りを依頼する際に赤松の条件を約40年生程度と決定した。また,C課長は,利根村内で被告Bの悪いうわさを聞いたことがないということのみをもって,被告Bの資力,信用及び技術には問題がないと判断し,利根村以外の業者である有限会社G及び有限会社Hの資力,信用及び技術については調査せず,被告Bとの比較を行わなかった。
このような事情によれば,選定された造園業者の中で被告Bが最低額の見積書を提出したことを考慮しても,本件契約においては,被告Bを相手方とすることが当初から予定されており,そのため,他の造園業者との比較において被告Bが本件契約の相手方として適当であるか否かの検討が怠られたものと推認せざるを得ず,この事実は本件契約を随意契約の方法で行ったことの公正を妨げる事情に当たるので,本件契約とこれに基づく本件公金支出には違法性が認められる。