養老孟子『唯脳論』,ちくま学芸文庫,1998年

我々は脳の中に生きている。世の中も自然も宇宙も、脳が理解できるようにしか理解できない。

 

ヒトの活動を、脳と呼ばれる器官の法則性という観点から、全般的に眺めようとする立場を、唯脳論と呼ぼう。(p.12)

 

脳が死ぬことが個人の死であるならば、逆に、脳だけを救えばどうか。個人の生命を救うことが医学の目的であるとすれば、医者が「脳だけでも救う」という目的に向かって、努力を集中しないという保証がどこにあるか。(pp.60-61)

 

計算機とは、明らかに私たちの脳の延長以外の何ものでもない。それは、ヒトの脳でもっとも最近になって出現した性質を、とくに強く延長したものである。小さな計算機にさしたる能力がないからといって、これを原始的な脳だと考えるのは、その意味からすれば徹底的な誤解である。それは、私たちの脳の最新部分のさらなる延長なのである。(p.80)