深沢七郎『楢山節考』,新潮文庫

命の重さは不変ではなく、時代によって異なる。

日沼倫太郎の解説の以下の一節が、読後感と一致する。

 周知のように深沢氏にとって世界とは、それ自身としては何の原因もない「自本自根」のものすなわち無であり、空間の拡がるかぎり時間の及ぶところ、何時はじまって何時終るとも知れない流転である。万象はその一波一浪にすぎない。あらゆる事象は「私とは何の関係もない景色」なのである。このような作家が、作中に登場させる人物たちをあたかも人形か将棋のコマのように扱ったとしても無理はないだろう。心理とか感情とかは一切みとめない。物として処理する。(p.211)